【Vol.46】桐朋との繋がり – 36期 吉田 光博さん 後編-
インタビュアー:桐朋初等部同窓会 会長 髙田紀世(以下、髙田)
吉田光博さんとのインタビューの後編です。
前回のインタビュー<前編>はこちら
髙田:
レスキューのお仕事をして、良かったなと思うことを教えてください。
吉田さん:
そうですね。やはり感謝されることが多いので、もちろんそれが仕事なので当たり前のことなのですけど、嬉しいですし、励みになります。火事を起こしたくて起こす人はもちろんいないですし、事故も同じくそうです。それでも、災害や事故は起きてしまって助けを求める人がいます。その極限の場面において、人命を助けることが出来るのは、ごく一部の限られた人にしかできないことなので、やっててよかったなと思いますし、すごくやりがいを感じるところでもあります。
髙田:
逆に大変なことはなんですか。
吉田さん:
基本的に厳しいことやきついこと、苦しいことは、毎日のようにあると思います。
当たり前ですけど、みんなが避難していく火災現場に人を助けに行くということは、そう簡単なことではありません。何より一番苦しいのは、やはり助けを待っている人なので、その為の訓練がきつい、つらい、苦しいなどと弱音を吐いている場合ではありません。
苦しいって思っている時期ももちろんありましたけど、仲間と一緒にやるから乗り越えられるっていうのは、ありました。1人だと決して乗り越えられない壁もたくさんありました。きつい、苦しいと言っても何も始まらないですし、何より目の前に助けを待っている人がいるのに、きつい顔や苦しい顔をするわけにはいかないですからね。つらいと感じるのは、どんなに頑張っても助けられない状況であることもありますし、助けた後に、亡くなったと話を聞いた時ですね。
きつい苦しいって当たり前ですけど、夏の火災現場は熱中症と隣り合わせですが、日々のトレーニングと経験で乗り切ることができます。真冬の火災現場や極寒の海や川での救出であったり、指先の感覚がなくなるような場面ももちろんあります。私は東日本大震災の時に、第八消防方面本部の消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー隊)に所属していました、福島第一原発が津波による被害で爆発事故が起き、我々の部隊にも派遣命令が出されました。今までに経験したことのない放射能災害という、目に見えない物質がある中、被爆や爆発という恐怖が頭をよぎりました。個人線量計といって放射能を測定できるもの身に付け、安定ヨウ素剤を飲み、第一原発の三号炉に向かいました。海水を大型の消防車で吸って、屈折放水塔車という高いところから放水できる消防車を三号炉の横に止め、鉄塔や建物が倒れて、消防車が走行できないところもある中、最低限の隊員によって知識や経験を活かし、工夫しながらホースを伸ばし、三号炉に放水をするという任務がありました。私達が出場する災害現場は同じところや同じ事案はありません。何が起きるか誰にも予測ができないこともあります。火災現場も救助活動現場ももちろんですが、爆発するかもしれませんし、床が抜けるかもしれない、倒壊するかもしれないという中で、その中に人がいるとなれば助ける以外に選択肢はありません。恐怖と不安と戦うという怖さは減ることはあっても、無くなるということはないと思います。
髙田:
肉体的にも精神的にも鍛えなくちゃいけないことがたくさんあるのですね。
吉田さん:
この仕事だけではないと思うのですけど、どれだけ肉体が強くても、最後は心が決めることがほとんどなので、私が大事にしていることは「不屈の精神」ですかね。
基本的には、どんな逆境に置かれても最後まで絶対諦めない精神です。それを持ち続けていないと、どこかで弱い自分が出ると怪我や事故に繋がりかねないので、常に高い意識を持ち、精神状態を安定させています。仲間にも不安は伝わりますし、何より不安に思っている隊員が救出に来られたら、助けを求めている人がより不安になると思いますので、きつい顔、苦しい顔はしないで助けに行くっていうのは絶対なのかなと思ってます。
髙田:
心を鍛える訓練もあるのですか。
吉田さん:
メンタルトレーニングは、外部講師の教養やお話を聞いたりもするのですけど、一番は日頃からの訓練の中で、肉体もですけど、メンタルも鍛えていくっていうのが基本的なやり方だと思います。メンタルと仲間は切っても切れない存在ですからね。
髙田:
今お仕事をされていて、またこれまでの人生の中で桐朋教育が活かされてるなと思う場面はありましたかまたあればどんなことですか。
吉田さん:
卒業生が、桐朋教育が活かされてると感じるのは、おそらく社会に出てからだと思います。すごくいっぱいありまして、どこから説明していいかわからないですけど、それぞれの感性を大事にして、五感を使って成長させるというところから、感情を素直に表現したりできるのかもしれませんね。
ちょっとした事でも幸せな気持ちを感じたり、そういう豊かな心っていうのですかね、それを培われたのだと思います。社会に出れば、様々な厳しい場面や逆境に向かっていくことがありますが、その中で最後は気持ちというか、豊かな心とか、素直な気持ちが一番大事なのかなと感じますね。
他には、個性をそれぞれ認め合って、互いを尊敬し共に良い刺激を与え成長するという、性別も体格も性格も違う人が、お互いを認め合って、仲良く遊ぶという学びが、最終的に今の私の仲間意識に繋がっているのだと思います。
髙田:
素敵な言葉がいっぱい聞けて、素晴らしい有意義な学校生活を送られた結果が、今に繋がってるんだなということを感じました。一般的にレスキュー隊消防士として皆さんに伝えたいことはありますか。
吉田さん:
そうですね。
一番は増え続ける救急要請ですね。2023年の東京消防庁管内での救急車の出動件数は91万件を超え、過去最高となりました。約34秒に1件出動している計算になります、出場件数の増加に伴い、年々現場までの到着時間も伸び、救える命が救えなくなる恐れがあります。これはやはり軽症の方や緊急でない方が119番通報をすることが、一つの要因であると思います。本当に救急車が必要なのかを判断をして、119番をしてもらいたいなと強く感じます。呼んでいいか悩んだ場合は「#7119」という専門のアドバイザーによる救急車が必要なのか相談できる相談ダイヤルもありますので、ぜひご活用してください。
髙田:
ありがとうございます。最後に桐朋の同窓生に向けてお言葉をお願いします。
吉田さん:
「一歩踏み出す勇気」を大事にしてもらいたいなと思います。
いつとか、どこでとか、どの場面でということではないのですが、どうしても社会に出ると、苦しいことや厳しいことって、かなりの頻度で出てくると思います。感情とか素直な気持ちを大事にして、最終的には自分で判断して踏み出す勇気がないと解決していかない場面がすごく多いので、否定的に考えるのではなく、前向きにポジティブに、物事がよりうまくいくように最終的には自分の気持ちで一歩前に踏み出す勇気というのを大事にしていくと明るい未来に繋がるのかなと思っています。
もう一つは、「やりたいことを全力でやる」、これは桐朋生みんなが思っていることかもしれませんが、学生生活だけでなく、社会に入ってからもやりたいことを全力でやれるほど幸せなことはないと思っています。仕事だけではなく、プライベートも含めて家族だったり、自分の趣味だったり、全てにおいてそうなのですけど、やりたいことを全力でやることで新しい道が開けたり、その人の魅力が増えるのかなと思います。私の人生のテーマは「笑いと感動」です。少しでも多くの笑いと少しでも多くの感動を大事にした人生を過ごそうと心掛けています。
髙田:
素晴らしい言葉ありがとうございます。もう一点いいですか。
吉田さんのこれからの人生の目標を教えてください。
吉田さん:
もちろん、先ほど話したとおり、レスキュー隊には年齢制限があるので、あと何年レスキュー隊でいられるかはわかりません。東京消防庁には約18,000人の消防士が勤務していまして、その中で現役のレスキュー隊は約600人しかいません、全消防隊員の中で2%ぐらいです。残りの約98%は別のチームが多数存在していて、どのチームも人命救助になくてはならないチームです。入庁から約25年間経験した災害経験を活かし、今後は部下指導やレスキューを目指す若者の手助けができたらなと考えています。今現在はレスキュー隊の隊長に就任したばかりなので、自分の隊員達を少しでも現場で自信を持って動ける隊員に育てたいです。
最近では、中々長続きしない隊員も増えてきていまして、苦しさばかりが先行し、まだまだ魅力を伝えられていないのが現状です。少しでもレスキュー隊の魅力を伝えて、24時間勤務しても、この仲間と仕事ができてきついけど楽しかったな、この仲間と一緒にまた現場で助けたいと思えるようなチームを作ることに専念したいです。
髙田:
ご自身の体にも気をつけて、お仕事頑張ってほしいと思います。今日はどうもありがとうございました。
吉田さん:
ありがとうございました。
次回、卒業生のインタビュー記事は<2024年8月1日>に予定しています。
こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,571名(2021年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。
同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。
「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。