【Vol.41】桐朋との繋がり – 矢島 愛子さん 前編-

ゲスト    :桐朋学園初等部 36期 矢島愛子様(以下、矢島さん)
インタビュアー:桐朋初等部同窓会 会長 髙田紀世(以下、髙田)

 

髙田:
本日はピアニストの矢島愛子さんをお迎えして、インタビューさせていただきたいと思います。

矢島さん:
よろしくお願いいたします。

髙田:
それでは自己紹介からお願いします。

矢島さん:
私は1987年に桐朋幼稚園に入園しまして、桐朋小学校、桐朋女子中学校、高校普通科、それから桐朋学園大学のソリストディプロマコースに進学して、3年生の途中から留学してドイツのハノーファー音楽演劇メディア大学へも通うようになりました。桐朋のソリスト・ディプロマ・コースは最長7年まで在籍でき、7年かけて修了しましたので、桐朋に21年在籍しました。生粋の桐朋っ子でございます。

髙田:
ありがとうございます。桐朋小学校で、印象に残っていることはありますか。

矢島さん:
小学校ではあまり勉強をした思い出がなく、畑仕事をしたり、泥んこ遊びをしたり、どんぐり山に行ったりとか、体で自然を感じて素敵な感情を養うという、そういう経験をしたことが深く思い出に残っています。

髙田:
よくした遊びはありますか。

矢島さん:
幼稚園の園庭に砂場がありまして、そこへは小学校に入ってからも、放課後遊びに行ってはドロドロになって帰っていました。アスレチックも好きでしたし、低学年のグラウンドにある木によく登っていました。

うちの子どもが中学受験をするので、理科の勉強もしてるんですけど、私は受験勉強していないので、息子から問題を出されて、これ難しいでしょうって言われて、物理分野はわからないこといっぱいあるんですけど、生物分野だったりすると、小学校時代の外遊びを通していろいろな経験しているので、難しい問題でも意外とぽろっと答えられたりして、知らず知らずの間に学んでいたんだなって感じることは、結構たくさんあります。

髙田:
桐朋生を楽しんでいる中でピアニストを目指 そうと決めたのはいつからだったのですか。

矢島さん:
ピアノを始めたのは3歳9ヶ月の時で、同じマンションの中に同い年の女の子がいて、そのマンションの中にピアノの先生がいらしたので、みんな一緒にせえーので始めたんですね。

私は人よりも1曲1曲を仕上げていくペースが速かったので、ページ競争が楽しくてピアノにのめり込んでいったっていうのが最初なんです。桐朋に入って様々な価値観に接し、中学高校には帰国子女の方もたくさんいらっしゃったし、スポーツで頑張ってる人もいて、いろんな方がいらっしゃったので、ピアノだけってどうなのかなって考えるようになってしまいました。中学から高校へ進む時には、普通科に残ったらどうだろうかっていうお話も担任の先生からいただいて、高校時代はずいぶん進路に迷いました。推薦で普通の大学に行くかどうか、ギリギリまで迷ったんですね。高3のときは小論文の塾にも通いました。最終的にいつ音楽科に行こうと決めたかっていうと、高校3年生の1学期の終わりぐらいです。すごく遅かったんです。

勉強は、長い人生の中でいつでもできるかもしれないけれど、音楽っていうのは、もちろん勉強することはできるんですけど、若い時期に集中的に一生懸命練習して、筋肉をつけてとか、フィジカル面でのトレーニングが必要だと思ったんですね。ここで1回立ち止まって、また後から始めるっていうのは厳しいんじゃないかと。それでまずは音楽の道へ行こうって決めたのが高3の7月です。

髙田:
ピアニスト以外にやりたいことはあったのですか。

矢島さん:
音楽に携わりたかったのと、高校生のときに取っていた倫理の片山先生の授業がとっても面白かったんですね。それで音楽美学の方に行きたいなと思って。音楽の哲学の方に興味を持ったので、学者方面でいくっていうのが、ピアニスト以外で考えた道ですね。

髙田:
いずれにしても音楽に関連することをするのが夢だったのですね。今のお話にもありましたが、
ピアニストにはどんなフィジカルが大事なのですか。

矢島さん:
そうですね。もちろん体が若くて元気だから弾けるっていうのもありますけど、あとは記憶の面です。暗譜力ですね。

年を取ってくると簡単に記憶することが難しくなってくるじゃないですか。若い時にできるだけ多くの曲を勉強しておくと、今この歳になって、もう1回取り出してきてもあまり苦労せずに思い出すことができるので、20歳ぐらいの時に、まだこの曲は自分自身が成熟してないから内容的に難しいなって思っても、1回譜読みしておくと、今になってこういうものだったんだっていうのを理解しやすくなるというか、そういうのはあると思います。

髙田:
そうなのですね。若いときに弾いた曲を、今弾くのとでは変わるものですか

矢島さん:
そうですよね。やっぱり若い時と比べて、今の方が自分に合った弾き方を確立してきているように感じています。
若い時は、先生に教えてもらって、それを何とか自分のものにしていこうとする時期だと思うので、音楽って伝承していくものなので、先生から教えてもらったことを何とか再現しようとするけれど、年取ってくるにつれて、人それぞれ考え方も違うし、持ってる体も手の大きさも違いますので、自分の奏法とか、思想というものがだんだん確立していきます。昔譜読みした曲を久しぶりに取り出すと、若い頃の癖が出てきちゃったりもするんですね。でもそれをいかに自分のものにしていくかっていう、そういう楽しさもありますね。

髙田:
人生経験を積んでくると、表現の仕方も変わってくるということですね。

矢島さん:
本当に変わりますね。
桐朋って、人と自分をあまり比べないじゃないですか。特に小学校では。
私の息子が今小学5年生ですが、息子の学校は通信簿が10段階なんですね。結構厳しくて10なんてほとんど取れないし、周りの人と比べてどの位テストが出来たか、などで評価が決まるんです。でも桐朋ってそういうのないですよね。

中学・高校では勉強もしっかりしました。でも通信簿はもらわないじゃないですか。なので、大学生なって初めて、これまで私はあまり人と比べられたことがなかったんだなって気付いたんです。音大は競争が熾烈で、コンクールに出たり試験を受けたりするようになって初めて知ったんです。

周りと比べてどうかではなく、自分がどうしたいかっていうことを徹底的に教えていただいて大きくなったので、大学に入って留学したら、さらに競争が激しくなり、人と比べられるっていうことに耐性がなかったので、すごく辛かったです。

間違えないで弾かなきゃとか、なるべく減点されないようにとか。コンクールでは、どの審査員が聴いてもそこそこいいなって思ってもらえるような演奏をすると点が入りやすいです。強烈な個性がある場合、すごいって高く評価してくれる人がいる一方、この演奏は嫌いだと思う人もいて、結局それとそれが相殺されて真ん中ぐらいの評価になってしまいます。

だから、できるだけ嫌われないように丹精に、減点されないようにっていうふうに、どこかでいい子になっちゃったというか、遠慮してたところがあったんですけれど、コンクール世代が終わり、自分が本当にやりたいことを追求しようって思いました。30代を通して、自分らしさって何だろうっていうのを、また小学校の頃の原点に返って考えるようになって、演奏も大分変化してきたように感じます。

髙田:
ご縁があり先日矢島さんのピアノを聞かせていただいて、第一印象がとても優しいピアノだなと感じました。

今までのいろんな経験や思いが、ピアノの音色に伝わっているのだということを感じながらお話を伺いさせていただきました。これからますます素敵な音色になりますね。

ピアニストをしている中で、桐朋教育が活かされたことはありますか。

矢島さん:
そうですね、まずは自分の感情の引き出しがすごく豊かになったということですね。
元々心は自由な人間なんですけれど、人と同じようにする必要はないし、周りの人と比べられたりしないで育ってきたので、人と比べてどうじゃなくて、自分がもっと良くなるためにはどうしたらいいだろうって考える方向に、先生方が持って行ってくださったと思うんです。

私の同級生たちも、女性も男性も様々な場所で今活躍されていて、みんな個性があるし、この人桐朋生だってすぐにわかりますよね。自分の言葉で自分の意見をしっかりとお話しされるし、たまに率直過ぎるときもあるかもしれないけれど、自分の言葉で考えて、自分の言葉で発言するっていうことがとても得意な人たちのように感じるんです。

私にとってもそれってすごい財産です。どこに行っても、例えばドイツ留学時代でも、何か意見を求められた時に、周りの日本人は黙ってしまっても、私は恥ずかしがらずに、自分の言葉で話すことが出来ていたように思います。それが当たり前だと思っていたけれど、実は全然当たり前じゃないっていうことに海外へ出て気付きました。

髙田:
ご主人も桐朋生ということをお聞きしたのですが。

矢島さん:
そうなんですよ。
中学から桐朋でして、主人は府中の人で、小学校は公立だったんですけれど、中学受験をして桐朋に受かりました。主人の弟も桐朋で、兄弟でお世話になりました。

髙田:
男子校出身と女子校出身で、違うな と感じることはありますか。

矢島さん:
そうですね。
話を聞いてると結構似てるのかなと。うちの主人は、小学校高学年が受験勉強中心だったので、中学に入学したときに両親に、自分はこれから部活に打ち込むからよろしくって宣言をして、軟式テニス部に入りました。部活に捧げた6年間だったそうです。授業中も隠れてラケットにガットを張ったり、早弁したりとかしても全然注意されないし、自分の好きなことを好きなだけさせていただいた6年間だったそうで、とことん楽しかったみたいです。今でもそのテニス部のお友達と親交があって、結婚式にはみんな来てくださって、それはそれは楽しい会でした。皆さん全然違う進路で、大きな銀行の支店長さんとか商社にお勤めだったりとか、うちの主人は医師なんですけど、本当に様々な分野で活躍されています。でも同窓会とかなどで久しぶりにお会いすると、一瞬のうちに学生に戻っちゃう感じで、あー桐朋の仲間っていいなって思いました。

【矢島愛子さんの詳細情報は下記URLよりご確認ください※別サイトへリンクします】
▼矢島愛子さんのコンサート情報:https://www.aikoyajima.com/Information/top.html
▼月刊ショパンの紹介:https://www.chopin.co.jp/media/chopin_backnumber/a5529

次回、矢島愛子さん-後編-は<2024年3月1日>に予定しています。

こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,571名(2021年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。

同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。

「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。