【Vol.27】桐朋との繋がり -35期 深澤幸郎さん 前編-

ゲスト    :桐朋学園初等部35期卒 深澤幸郎さん(以下、深澤さん)
インタビュアー:桐朋初等部同窓会 会長 髙田紀世(以下、髙田)

 

髙田:
本日は「マツコの知らない世界」の「公園遊具の世界」にご出演なさったこともある35期卒深澤幸郎さんのお話をお伺いさせていただきたいと思います。まずは自己紹介からお願いいたします。

深澤さん:
事前にご質問を頂いていたので、卒業年を調べたのですが、2000年に高校を卒業しているので、その6年前、1994年に卒業しています。ちょっと期はわからないのですが、桐朋小学校を卒業しました深澤幸郎と申します。幼稚園からずっと桐朋に通っていた生粋の桐朋っ子です。というところです。

今の仕事を簡単に説明すると、株式会社コトブキという会社で、公園に置かれている滑り台やブランコなどの遊具や駅のホームに置かれているベンチといった、みんなが使う遊具や家具を作る会社の社長をしています。現在40歳です。

髙田:
ありがとうございます。今のお仕事をなさるきっかけは何があったのでしょうか?

深澤さん:
もともと実家の家業なので、実家を継いだというところではあるのですが、
それも結構急な話で、あまり家業を継ぐとかということは考えずに、普通に就職活動をして、就職1社目の、10か月くらい経った時点でそういう選択肢もあるかなと思って継いだということですね。

何かを意識して、人生生きてきたわけでもなく、普通に楽しい高校生活、大学生活をしてきて、普通の生活をするつもりで過ごしていて、気づいたら会社を継いでいたということです。

髙田:
桐朋の生活で家業を継ぐきっかけになった事柄はありますか?

深澤さん:
家業なので、直接的に桐朋にいたから継ぐとかということでは当然ないのですが、
継いでくれというのは結構急な話で、当時24歳で話が来て、そういう突然大きく事態が変わることに対してあまり「なんか嫌だな」とかは思わずに、「そういうこともあるよな」って思って受け入れて、そこから「どうしようかな」って考えるようなところですかね。自分の力ではどうしようもない変化に対して、その変化を受け入れて「じゃあどうしよう」って考えるみたいなところは桐朋生らしいなというのはちょっと思います。

髙田:
いろんな変化にチャレンジしていくのは桐朋生らしいなと思います。遊具を作るお仕事の上で、小学校時代の遊びを活かしていることはありますか?

深澤さん:
感覚は幼稚園、小学校の時代からあまり変わらないので、面白いって思うかどうかを大切にしています。今は会社の代表として社長をしていますが、製品の開発も社長の仕事なので、自分で絵は描かないですが、どういう遊具がいいのか、どういうベンチだと人が座りたくなるのか、ということは常に考えています。そういう時に小学生の感覚のまま大人になれるという訳にはいかないまでも、小学生の感覚を維持したまま大人になれるっていうのはすごく難しいことだと一方では感じています。やっぱり社会人になると、なんとなくこういう感じとか、一般的にみんなはこれを求めているかなみたいな、いわゆる当てに行くということが多くなる。その中ではいい意味であまり人の意見を聞かないというか、自分はこう思うというのを自分で考えて、自分で決めてやっているあたりは桐朋で過ごしていたのがすごく活きていると思います。

髙田:
深澤さんはお子さん4人とも桐朋にいらしているということをお聞きしましたが、お子さんの生活からお仕事のヒントを得られることはありますか?

深澤さん:
自分の子どもだからということは気にしないのですがそうですね、僕が小学生だったのは30年前ですけど、ゲームは当時からあって、今もあって、ある一定の側面においては、ゲームをやっている子どもを家から外に出てきてもらうというところがすごく大事なことだと思っています。そういう意味だとあまり変わらないなって実は思っています。

唯一大きく変わったのはこの2~3年のコロナで、本当に外に出られないというところは変わったなと思います。けれども、その他は実はあんまり変わらないのではないかと思っています。

髙田:
子ども達を外に出そうという工夫はあるのですか?

深澤さん:
遊具は基本的に行政、地方自治体が買うものなので、これだけ頑丈ですとか、これだけ高さがありますとか、数字で表せるもので値段が決まりがちです。でも本質的な価値はそこだけではなくて、子どもこそちゃんと理解して、例えば色がきれいであるとか、デザインの価値みたいなところは、子どもの方が敏感に、正しく反応してくれると思っています。なので、鉄のパイプでこうやって作っていくらで作るというのが決まったとしても、じゃあ色は何色にしようかとか、もう少し綺麗にしようとか、カラフルにしようとかということは、結構意識してやっています。

髙田:
コトブキさんの遊具で人気なものを教えてください。

深澤さん:
最近だと二つあって、一つは公園にはお城みたいな遊具があると思うんですけど、その滑り台がすごく広くてちょっとボコボコしているものです。個人的には、昔から公園にあるコンクリートっぽいツルっとした表面の長い坂みたいな遊具があると思いますが、あれがすごく好きで。

でも、好きなんですが、今の時代転んで頭を打ったら危ないので、あのデザインを意識しつつもそれを新しい製品にした方がいいなと思って作りました。それがすごく人気なのが嬉しいというのが一つ。もう一つは人気と言っていいのかどうかは分からないですけど、昨今よく言われるインクルーシブな遊具というのがあり、インクルーシブな公園というもののお仕事を最近よくさせてもらっています。

ハンディキャップのある子どもと、健常な子どもが一緒に遊ぶというところをすごく大事にしている、そんな遊び場の設計、遊具単体だけではありませんがそのようなお話をよくいただいたりしています。

髙田:
作る上でポイントはあるのでしょうか?

深澤さん:
自分はハンディキャップがあった時代がなく、一般的に見るととてもありがたいことに体が頑丈でしたので、自分たちがそもそもハンディキャップを持っていないということから、誠実にちゃんと向き合うことだと思っています。すごく印象的だったのは、四肢の筋力が弱くて同じ年代のお子さんと遊べないっていう子どものインタビューを収録したときに、「何が欲しいですか」って聞いたら、お母さんが休む場所って言ったんですよね。

小学校の中学年ぐらいになると、自分一人で公園に行けないけれども、遊びたいは遊びたい。そんな時に、夏場などお母さんが立って見てなきゃいけないのがつらくて帰りたくなるっていうんです。

ああ、なるほどなって。自分たちが面白いでしょう、これいいよね、と言うだけじゃなくて、やっぱり現場に行って現実として、それがどういう場でどうあるべきなのかというところはきちんと考えないといけないし、そういう意味だと自分がわからないことに対して、わからないので見に行くとか、わからないので聞きに行くという謙虚さみたいなのがすごく大事なんだと改めて気づかされました。

髙田:
私は子どもって、今しか見てない生き物だし、周りが見えてないのかと思っていたのですが、今お話を聞いて、実は見ていないようで見ていて、考えていないようでいろいろと考えているんだなと感じました。

深澤さん:
子どもはきっと大人が見ているよりも目や耳、その視覚、聴覚、触覚とか人間の体に備わっているセンサーの性能がいいというんですかね、できたばかりのセンサーで、やはり年を重ねる中でだんだん落ちていくものだと思うので、そういう意味だと、小さい頃が一番いいものを持っていて、もちろんいっぱい聴くことで聞き分けられるようになる。

ピアノの音で、これがいいあれがいいというのは後天的に鍛えられるものですけど、本質的なセンサーとしての耳であり、鼻でありとかというところはやはりいいものを持っていると思っていて、なので僕らが見えている世界と違うんじゃないかってよく考えます。よくこういうものが面白いだろうと思って子ども向けに作った遊具よりも、子どもにすると、工事現場のカラーコーンとかで遊んでいる方が楽しいというのがよく言われていたりするので、子どもの為に考えるのですが、子ども騙しのデザインであってはいけないなというのは常々思いますよね。

髙田:
桐朋の本物に触れる教育というのは、子どもの五感を鍛えている意味でもとても素晴らしい教育ですね。

深澤さん:
はい。いいと思います。
桐朋もいろいろ遊具を置いていますが、学校には同級生がいるし、何だったら先生もいるし、外の刺激がいっぱいあるので、遊具自体はもちろんあっていいと思うのですが、僕は桐朋の遊びの中に占める、砂や土が占めている割合が高いのがすごいいいなと思っています。たぶん今もやっていると思うのですけど、僕の時代には泥団子をきれいに作るというのを猛烈にみんなでやっていました。砂を集めたり、自分で何かを作って壊したり、半分科学の実験に近いですけど、ラインを引く白い石灰で団子を固めて先生に怒られたりとか、みんな一回は経験していると思います。だからあんまり与えないでも、土や砂っていう身近なもので十分遊べるんですよね。そういうところがあるのが、僕は個人的にはすごく良い教育だったんじゃないかなと思います。今日も久しぶりに学校に入りましたけど、相変わらずあまり置いてないのはすごくリッチだなっていうように個人的には思いました。

髙田:
泥団子は永遠の子どもの遊びアイテム(笑)

深澤さん:
はい。終わりなき(笑)

次回、深澤幸郎さん-後編-は<2022年10月1日>に予定しています。

こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,571名(2021年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。

同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。

「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。