【Vol.38】桐朋との繋がり -16期 秋山 仁志さん 後編-

ゲスト    :桐朋学園初等部16期卒 秋山仁志さん(以下、秋山さん)
インタビュアー:桐朋初等部同窓会 会長 髙田紀世(以下、髙田)

 

秋山仁志さんとのインタビューの後編です。
前回のインタビュー<前編>はこちら

髙田:
桐朋教育が今の人生やお仕事に生かされていることはありますか。

秋山さん:
この桐朋で過ごした時間は、僕の宝物となっています。
男子校PTA総会の会長挨拶で、「あのひと、桐朋っぽいなあ」というお話をしたことがありました。
社会にでてから、桐朋出身の方はなんとなく、その雰囲気があり、わかります。
なんか、社会に出て、話をしていると、なんかこの人、桐朋っぽいなあ、と感じ、ご出身は?と確認すると桐朋出身だったということです。
校長先生と、よくその話で盛り上がってました。校長先生もいたるところでそのお話、聞くんですよねとおっしゃってました。
△△高校ぽい、□□高校ぽい、○○高校ぽいは、あまり聞いたことないです。

僕が思っている桐朋は、ほかの学校には絶対にない、かけがえのない、大切なものを知らず知らずに得させてくれました。
生きていく上で一番大切なものをこの桐朋で学ばさせていただきました。
それが「桐朋イズム」だと今では思います。

僕が小学生の頃は、
東大の順位は、東京の私立では
麻布、開成、武蔵があって、その次に、三多摩にある桐朋がくる、そんな学校でした。
桐朋祭のときに中庭の壁にずらっと、東大、一橋、慶應、早稲田の合格者が連なって掲示されてました。

現に東大の合格者は、
開成、灘、麻布、筑波大附属駒場、東京学芸大、ラサール、筑波大附属、日比谷、西、私立武蔵、戸山、栄光、県立浦和、湘南、県立千葉、小石川、桐蔭、駒場東邦、桜蔭、桐朋で、
過去60年で見た場合、桐朋は20位となります。

この中で幼稚園からある学校は桐朋だけです。
内部生は、中学入試はありますが、その成績と小学校校長推薦のもとに、内部進学で女子部、男子部に進学できます。

受験だけを考えれば、他の進学校のように、さらに厳格な選抜を行えばいいのかもしれません。
現に、上に系列のある名の知れた小学校は、そういう学校がほとんどです。
その場合、桐朋小学校の生徒は中学受験を控えるため、小学校低学年から、○○塾、○○研に遅くまで通って勉強する方がほとんどになると思いますが、実情はそうではないかと思います。

でも、桐朋小学校、桐朋幼稚園出身者が東大理三に行ったり、陸上のインターハイにでたり、スキーインターハイにでたり、水球の全国選抜に選ばれたり、各々何かで秀でるものを現すという、他ではちょっと考えられないなんとも不思議なところです。

たかだか4歳や6歳のときに入園・入学した子どもがこの仙川の桐朋で変わるんです。
普通では、なかなか考えられないと思います。
たまたま、そういう人間がいたんじゃなくて、それが不思議に続いているんです。

けっしてその時からなんでもできる天才君であったわけではないと思います。

なので、その根底に隠されているもの、すなわち、それが僕が思う「桐朋教育」なんですが、「桐朋教育」というものは、こころざしを高く持たせる人間教育として、桐朋の教育は、正解なんだと自信をもって言えると思ってます。

桐朋教育は、あらゆる教育システムがある中で、卓越した、他では太刀打ちできないものだと思います。

いま、言われている多様性、ダイバーシティという考えは、僕が小学生の頃から、桐朋はずっと前から当たり前のように行っていました。

幼稚園、桐朋小学校、桐朋学園小学校、中学受験組、高校受験組が一緒になり、成績だけ、偏差値だけが評価の物差しには決してならず、歌が上手い子、楽器が上手い子、絵が上手な子、サッカーが上手い子、バスケが上手い子、生物が大好きな子、宇宙に興味がある子、歴史に興味がある子、体が弱い子、何かに夢中になっている子、等、自分にはない、いろんな価値観があることを知り、その中で仲間意識が芽生えて、お互いを尊重し、みんな違って、みんなすごいという当たり前のことが自然に身につき、助け合いの精神、生きていく上で必要な核となる部分、根っこの部分、人生の幹となる部分ががこの桐朋の中で育まれていきます。

大阪大学医学部前身の緒方洪庵先生の適塾だと思ってもらえるとわかりやすいかなあと思います。
こころざしをもった人間が学習するところです。

僕はその理由はなんとなく、肌感覚ではわかっています。

小学校校歌の
富士のお山がにっこりと
僕らの窓を覗いてる

良い子、強い子、桐朋っ子、
希望に燃えて進もうよ

良い子、強い子、桐朋っ子、
明るい日本作ろうよ

の精神は、その後、

こころざし、いや高く、なもゆかし、きりのとも
おおとりのひなの家 あめつちのまことついばみ

(意味:我々も優れた資質を一層磨き上げ、ますます志を高く持って、勉学に運動に励んでゆこう。
鳳凰は、桐の木にだけしか止まらない。その鳳凰の雛のような僕らが、真実を探究しながら、立派な人間に育っていくところだ。)
に引き継がれます。

桐朋男子校校歌の中で歌われている内容です。
今も校歌を聴くと、なぜか背筋が伸びて、心の昂ぶりを覚えます。

桐朋は、
自由な精神を培う人間に育つ教育がなされています。
大学入試の結果だけを求めて、
がんじがらめで、勉強させる学校、規律が厳しい学校は、もう世の中にたくさんあります。
それだけを求めるのであれば、そこに行けばいいだけです。極めて簡単なことです。

でもそのあと、根の部分がないので、大学行ってから、続かなくなったり、心が病んでしまう方もいます。
僕も教育系の大学に勤務しているので、そういう学生をたくさんみています。

桐朋にどっぷりつかった桐朋生は、生きていくための根っこの部分が太いので、あまりそのようなことにはならないかと思っています。

桐朋は、勉強だけではなく、
さまざまな個性、価値観がいろいろあることを気づかせて、自分の存在意義を見出せて、先生や、友だちがそれを認めてくれるところが魅力的といえます。

髙田:
初等部PTA会長として桐朋に関わり感じたことはありますか。

秋山さん:
初等部PTAで、よく小学校の保護者の方から、「こんなんでいいのか、中学に入ってから、落ちこぼれるんじゃないのか」とか、「受験で入ってきた子についていけないんじゃないか」とものすごく心配されるお話をお聞きしてました。
僕は、PTA役員会で、同級生の話をよく行っていましたが、「みな、社会の中でそれなりの立場で頑張っている人が多いです、充実した毎日を過ごしている人が多いですよ。お子様方は今は生きるための必要な根の部分をしっかり育てているところですよ、なので桐朋生は大丈夫です」とお話しておりました。

最近の風潮で仕方ないのかもしれませんが、保護者と生徒がこの桐朋という学校を選んだにも関わらず、「他の学校だとこういうことしてる」、「姉の学校だとこうだ」、「弟の学校はあんなこともしてる」、「お友だちの学校はこんなことさせない」等、「桐朋教育」の良さを認めず、子どももせっかく桐朋と関われるのに、それに染まることがなく、過ごしているように思えます。

先生方も様々な対応をしなければなくなり、僕からしたら、「え、なんで?って」思うことが多かったです。
本当に勿体ないなあと心底思っておりました。

司馬遼太郎先生は、
日本人がキリスト教の倫理観をもつ西洋人に立ち向かうには、「名こそ惜しけれ」の精神があればよいと述べています。
僕は、社会に出て、いろんな困難に向き合わなければいけない時、桐朋教育で培った「桐朋イズム」があれば、どんな時でも対応できると考えています。
それくらい、桐朋の教育は困難に向き合う時に根幹を照らしてくれるため、「桐朋イズム」がその時々で発揮できれば、他の誰よりも秀でることができると考えています。

なので、今、桐朋に通われている子どもたちに、子どもたちのあたりまえの日々の「楽しさ」を大人がしっかりと見守ってあげて、子供たちが心に残る「宝物」を生涯大切にしていけるように、常に「子どもを真ん中に置くこと」を忘れずに、保護者の皆様も過ごしていただけたらと思います。

桐朋は本当に素敵な学校です。
僕から言いたいことは、
ほんとうにすてきな学校とご縁があったことを誇りに思って、桐朋にどっぷりつかってみてください。
どっぷりつかった生徒は、「桐朋イズム」を身につけて、素晴らしい人生が約束されると思います。

髙田:
ご自身の小学校時代と変わったこと、変わっていないこと、お話をお聞きしたいです。

秋山さん:
ふたり(長女、長男)の子どもも幼稚園からずっと桐朋でしたので、保護者としての立場でも、桐朋をずっとみてきました。
変わったこと、変わっていないことは、時代の変化でいろいろとありましたが、根本的な部分は僕が過ごした頃と何も変わっていないと思います。
形として変わっていないところですぐに思いつくのは、運動会で、年号が入った桐朋のペナントが配られるのは変わってなくて、PTAで前日準備してた時、ペナントを校庭に吊るす際、心の高揚感を覚えて、ものすごく懐かしかったです。

髙田:
同窓生に向けて、一言お願いいたします。

秋山さん:
桐朋の卒業生はかなりの数になり、それぞれの立場で、皆さん、頑張られていることと思いますが、
個人情報保護もあり、名簿も配付できず、その状況はよくわかっていないです。
これまで以上に、桐朋同窓会を通じて、皆さんの近況報告など教えていただき、母校の桐朋に対するあたたかな後方支援、サポートをしていただき、卒業生のお力添えで、より魅力的な学校にしてもらえればと思います。

髙田:
本日はありがとうございました。

秋山さん:
ありがとうございました。

次回、卒業生のインタビュー記事は<2023年11月1日>に予定しています。

こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,571名(2021年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。

同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。

「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。