【Vol.68】桐朋との繋がり -8期 山田 多佳子さん 後編-
インタビュアー:桐朋初等部同窓会 会長 髙田紀世(以下、髙田)
山田 多佳子さんとのインタビューの後編です。
前回のインタビュー<前編>はこちら

髙田:
生きることの意味が、日本人の感覚とはまた違いますよね。
もっと研ぎ澄まされたものというか貪欲のものがある気がします。
山田さん:
多分、日本ではお金がなきゃダメとか、成績がよくなきゃダメとか、「こうでなければならない」みたいなものが、すごくあるんじゃないかなと思います。
たとえば妊娠した女性が生む前に羊水穿刺をして、お腹の中の赤ちゃんがこうだったら産むけど、こうだったら産まないとか決めることがありますよね。
最近ではそうやって生まれたお子さんたちが大人になった時に、もしかして自分は生まれなかったかもしれないんだっていう、そういう選択をされて生まれてきたんだということに複雑な思いを持つ方もいるそうです。
髙田:
確かにそうですね。桐朋教育からもこうでなくてもいいということ学びますよね。
山田さん:
私は幼稚園から高校まで桐朋で、それ以外の学校を知らないので、なんとも言いようがないのですが、自分の頭で考えるという機会には恵まれていたように思います。あの頃の公立小学校では道徳の授業がありましたが、桐朋には道徳の教育がない代わりに自分の目で観察したり、自分で考える時間が多かったと思います。
今でも道徳教育ってあるのかな。やっぱり、桐朋では、何々せねばならないとか、女の子だからこうしなきゃいけないとか、そういう縛りはほとんどなかったですね。通信簿もなかったし。
髙田:
確かにそうですね。
山田さん:
「よくできました・普通・頑張りましょう」の三つしかなかったから、人と比べるとか、成績争いとかなかったと思います。
誰かと比べて何かするというより自分がやりたいと思ったことをやるという感じでしょうか。
人を殺しちゃいけないとか、物を盗んじゃいけないとかあるけれど、女の子だからダメ、何だからダメっていう、何かそういうものでダメと制限されることは、うちの親もそうでしたけど、女の子のくせにとか言われたことはないですね。
髙田:
貴重な話をたくさんありがとうございます。
今後の先生の目標を教えてください。
山田さん:
昨年、両親から相続した実家を私が会長を務める社会福祉法人に寄付したのですが、今、その家を壊して、更地にした後に児童心理治療施設という親から虐待されたり、本人にも発達障害等、色々あって、小さい時に愛着形成できないまま成長したお子さん達で行動化が激しく精神科の治療的介入も必要という子ども達が生活する施設を建設する予定です。
私は元々、小児科医なので、どこの国、どの親の元に生まれた子どもも幸せに育ってほしいとつくづく思っています。日本は環境的に恵まれているはずなのに、 OECDの国の中で子どもの自殺が最も多い国で年間500人以上の小中高校生が自ら命を絶っています。
つまり日本の子どもって幸福度が低い、生きている幸せ感がないのだと思います。私は回復期リハビリ病棟で自殺未遂で助かった10代の子ども達20人以上を受け持ちましたが、家にも学校にも居場所がなく、生きづらさを抱える子ども達が死なずに済む社会になるよう、一人の大人として少しでも責任を果たせるような仕事を続けたいと思っています。
ヨシタケシンスケさんという絵本作家の方が「かくれてしまえばいいのです」というWEB上の相談サイトを立ち上げていて、その中に無関係ばあちゃんっていう人物が出てきて、サイトに子どもが来ると「どうした?」 「あ、そう生きづらい、はいはい、じゃあここに入って」みたいな感じで子どもに関わるのですが、私はその無関係ばあちゃんっていうのが、すごくいいなと思っていて、つまりその子どもの家族、親でもない、同級生でもない、学校の先生でもない、無関係なおばあちゃんだから、
「どうしたどうした、生きづらいのか。そうか。じゃあこの階段上がって、はい、あっちの部屋入ってきな」という感じで、別に理由とか何も聞かないし、本人が出たければ、じゃあまたおいでみたいに送り出す。私が思うには、そういう無関係ばあちゃんという存在は、あの柴又の寅さんみたいな感じで、甥のみつおにとってはちょっと変な大人で無責任にフラフラしているんだけど、あれこれ詮索したり、突き詰めたりしない、子どもにとっての第3の大人というべき存在なのではないかと思います。

今の時代の子ども達はLINEとかSNSで人間関係がややこしくなっていて、常にヒリヒリした状態で、脳が疲労しちゃってるんじゃないかなと思います。
そういう中で飛び降りて怪我して、命は助かって、手術した後に入った回復期リハビリテーション病棟では、私みたいな大人が「さあさあ、リハビリやってね。どう歩ける?」みたいな感じで遠からず、近からず関わるので、自殺未遂した子たちにとって安心できる居場所としての役割を果たしているのではないかと考えています。
何かあったらSOSを発信できる信頼できる大人が、介入しすぎず、監視もしないけど、貴方に関心を持ってるよっていう立場で傍にいる。そういう無関係ばあちゃんを私はこれから目指そうと思っています。
4月に実家の近くにアパートを借りて、そこに私が子供時代に読んでいた本等を運んだのですが、いずれはそのアパートを無関係ばあちゃんの部屋として、子ども達がホッとできるような居場所にできたらいいなと考えています。長くなってすみません。
髙田:
今の子たちって居場所がないんですよね。
山田さん:
そうだと思います。それとスマホ依存があるのではないでしょうか。
髙田:
ですよね。無意識に時間があると、スマホを開いちゃうっていう。自分もなんですが電車の中で見渡すと周りみんなスマホをしていたりすることに気がつくをちょっとぞっとします。
山田さん:
今の子たちはスマホに支配されているというか、自分が知らない間に他の子たちが話していることに乗り遅れたらどうしようとか、レスポンスしないとその子に自分が悪く思われるとか。 他の子と比べたりしないで、あなたはあなたでいいのよっていうのが桐朋だったと思うけれど、今の子供もおそらく彼らの親世代の大人達も常に他者との比較の中で生きているように思います。
髙田:
でもそんな時、ほっと落ち着ける場所があるのはきっといいんだろうなと思います。
素晴らしい。私も行きたいぐらい。
山田さん:
是非、遊びに来てください。

髙田:
最後に桐朋の同窓生たちに一言お言葉をいただければと。
山田さん:
繰り返しになりますが、本当に今の子ども達は私の孫ぐらいの世代ですが、死なないでほしい。生きていてほしいと思います。
子ども達が居たくないという世の中を少しでも良くすることが私たち大人の責任だし、この地球も未来の方からお借りしていているわけですから、私たち大人はこの地球を滅ぼしたり、お借りしているものを壊しては絶対にいけないと思います。桐朋の同窓生には人を信じる力を養い、子ども達に信頼される大人として生きて行ってほしいと思います。
髙田:
たくさん素晴らしい話をありがとうございました。
山田さん:
ありがとうございました。

次回、卒業生のインタビュー記事は<2026年9月1日>に予定しています。
こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,928名(2026年4月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。
同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。
「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。

