【Vol.3】桐朋との繋がり -宮原 洋一先生<前編>-
インタビュアー:桐朋学園初等部同窓会 会長 坂口佐代子 (以下、坂口)
坂口:
宮原先生、本日はお忙しい中、お時間を頂きましてありがとうございます。
桐朋との繋がりというテーマについて、お話を伺わせて頂きます。本日、よろしくお願いいたします。
早速ですが、先生と学校との繋がりは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
宮原先生:
当時、和光学園の校長をされていた丸木政臣先生のご紹介で、桐朋とのご縁ができました。
坂口:
丸木先生は桐朋にもおられたのですか。
宮原先生:
実は丸木先生の奥様が桐朋で教員をされていて、そのご縁もあります。
坂口:
先生にとって、桐朋学園初等部にどのような想いを持っていらっしゃいますでしょうか。
宮原先生:
そうですね、子どもたちにとってまずは楽しい学校。学校へ行くのが楽しいなと、例えば夏休みなんか早く学校が始まらないかなと思えるような学校であってほしいと思っています。
卒業生に聞くと、何を学んだかよりも、みんなでいろいろな遊びや活動を楽しんだという、そういう思い出をみなさんすごく強く持っていますね。行事に取り組むとか、児童会の活動をするとか、子ども団活動をするとか、新聞を作るとかみんなで何かやったことが、もうすごく楽しかったようです。そういったことが卒業してからもずっと心に残ってるから、同窓会などで集まっても時の流れを超えて、楽しく一緒に過ごすことが出来るんじゃないですかね。
学校っていうものが、今申し上げたような子どもの暮らしと学びをベースとした、いわば桐朋コミュニティーとして成り立つ、そういう学校がいいなと思っていました。このコミュニティーというのは、初等教育ではとても大事なことで、そこでこそ主体的な子どもが育つのだと思うのです。子どもたちが子どもたちのコミュニティーで自主的に暮らしていくためには、自ら学校規模の問題がありまして、そのために桐朋小学校では、規模を縮小して432名になりました。
低学年は一クラス24名で三クラス、中、高学年は一クラス36名で二クラス、学年定員が72名ですね。当時、私が着任したときは二クラスを逆に三クラスに増した時代なんです。当時は学校規模を大きくすることへの想いがあったのだと思うのですけれども、今は、特に初等教育が果たす役割を考えた時に、今お話をしましたようにやっぱりコミュニティーとして成り立つ学校というのは必須だと思うんです。
坂口:
先生は何年に学校に入られたのでしょうか。
宮原先生:
1967年です。
坂口:
その後、約50年の間にコミュニティを大切にするために今の人数となっていくという過程があったのですね。
宮原先生:
そういった中で、子どもも教職員もありのままの自分でいられる学校であることを大事にしてきたように思います。これってすごく大事なことだと思うんですね。そして、子どもたちも教職員も、五感がいきいきと働いていく、そういった暮らしがそこで生み出されていったら、素晴らしいと思うんですよ。
例えば自然広場がありますでしょう、子どもたちはとても大好きな場所です。
それは、そこに行けば、虫もいるし、木登りなどいろんな遊びもできますよね。
それから、桐朋女子部門の宝物は八ヶ岳高原寮だと思います。あの高原寮はあれだけ広い土地で、何にも無い中で、その中でゆっくりと過ごせるということは素晴らしいことで、まさに五感がいきいきと働く場所です。
願わくは、私は行事で行くというよりも、むしろ向こうに暮らしを持っていき高原寮で暮らして、
1週間とか10日とか。そこで、教室もありますから午前中は勉強してもいいし、午後からのんびり遊ぶなどそういうふうに高原寮を使えるようになっていったらいいなと思います。
坂口:
八ヶ岳高原寮で子どもたちや大人たちが得られるものって何でしょうか。
宮原先生:
それはもう自然の中で、身心がいきいきと活性化すると思います。
自然とはそういものですから、人間は生き物で動物です、基本的にはね。
ですから自然の中に入って活動すると、動物的な感性っていうもの、想像力もが豊かになってくると思うんです。
しかも先ほどの学校規模の縮小と関連して言いますと、二クラスで72名が学年規模ですね。
そうすると、2つの学年が合同して合宿することもできますね。高原寮にはそれくらの収容力は十分にありますので、異学年で一緒にそこで寝食や学びを共にする訳ですから、仙川キャンパスでは得られないものがそこにはあると思うんですね。そういう意味で八ヶ岳高原寮は宝物だと思うのです。
坂口:
貴重なお話ありがとうございます。宝物の八ヶ岳高原寮にはまだまだ教育の可能性があるのですね。
宮原先生:
そうですね。私の想いですが、大いなる可能性があると思っています。同窓会やご家族でもぜひ行ってみてください。
坂口:
続いての質問ですが、幼稚園が今度新しくなります。
先生は幼稚園での撮影など色々と関わっていらっしゃっていますが、幼稚園に対してもどのような想いをお持ちなのかお話をいただけますか。
宮原先生:
そうですね、人間の発達にとって、幼児期というのはとても大事な時期で、特に今申し上げたような感性に関わる部分でいうと、自然のみならず、人と人との関係についてもいかに、感じ取れるようになるかという時期でもあります。
だから道徳教育などでこうしなければならないとかではなくて、生活の中で感じ取って人の痛みとか、喜びとか、悲しみとかが分かるようになるのですね。そのためには幼児期が非常に重要な時で、そういう意味でこの三歳から保育が始まるっていうのはとてもいいと思っています。
坂口:
ありがとうございます。
先生にとっての「感性」の大切さとはなんでしょうか?
宮原先生:
子どもにとって、何故色々なものを生き生きと感じ取れるのかというと、大人と違って概念的にものを見ないからですね。大人は成長してくると、色んな理屈だの知識など身につけて、そのフィルターを通してものをみます。ところが、子どもはそういった概念的なものが無いので直に感性でものと接することができると思っています。
ということは大人になっても、自分の五感を通して、物事をしっかり感じ取ってそこから色々と考えてみたりすれば、概念に捉われて物事を見たり判断したりしなければ、大人だってそういったものの見方、感じ方、考え方が取り戻せると思っています。
坂口:
大人になると常識の中で生きていると思うのですが、常識を超えて生きることは可能なのでしょうか。
宮原先生:
大人にとっての常識っていうのは、言葉を変えて言うと、慣習だと思います。社会のカスタムです。
社会の中で生きていくためには共通の理解、カスタムの中で生きていかなければ難しいですよね。
ただ、カスタムというものに対して、それは変えられないものかというと、それはまた違うものだと思います。
カスタムを変えるためには、ゆっくりとした時間とか、手続きとかが必要で、衝動的に何かをバーンとやれば相手側から当然大きなしっぺ返しがきますよね。
でも、少しずつでも小さなことを積み重ねることによって、実はカスタムは動き出すんだと思います。つまり小さなことを大事にしましょうってことだと思います。
こんなことが、って思えることも大事にしてやっていけばカスタムを変えることができると私は思います。
私は子どもの写真を撮ってるんですが、まさに子どもってこういものだと決めてかからないことですね。子どものその時の姿を全部受け止めて、こちらが無になった一瞬にシャッターが切れたらと願っています。
次回、後編を<2月20日>に掲載を予定しています。
こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,094名(2017年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。
同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。
「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。