【Vol.19】桐朋との繋がり -15期 手塚友恵さん 後編-

ゲスト    :15期 手塚友恵さん(以下、手塚さん)
インタビュアー:桐朋学園初等部同窓会 会長 坂口佐代子 (以下、坂口)

 

手塚さんへのインタビューの後編です。

手塚さん:
今年の山の日マガジンは、6月20日に2019年度版が出ます。
桐朋小学校でも是非こちらを配布して頂きたいです。

お話を戻しまして、四つ目の横糸をお話します。
縦方向に4つの事業があって横方向にそれを結んでいく、四つ目の横糸は「山の日アンバサダー」です。
山の日を作ろうって運動をしてきた人達は元々山岳スポーツの愛好者が中心でした。でも「山の日」っていうのは「登山の日」じゃないんです。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝をする」という趣旨を一人でも多くの国民に伝えたい。それは私たちのミッションなんですが、どうしても山岳スポーツの愛好者では情報を届けることができない層があるんですね。その層こそが実はもっとも我々が対象にしてゆくべき方々なんです。
「山の日」が、登山愛好者の身内の話にならないようにと、「山の日アンバサダー」という制度を設けました。これどういうことかって言うと、例えば作曲家でも女優でもいいし、編集者でも研究者でもいいし、料理人でも芸人でもいいし、モデルでも着付師でも、誰でもいい。何か専門的な分野を持ってらっしゃる方々、なおかつ山や自然を愛好してらっしゃる方々に、私たちの発信する情報を一旦受け取ってもらって、山の日アンバサダーをサテライトや前進キャンプとして、そこからいろんな方向に向けて、その人がその専門的な分野ですでに得ていらっしゃる共感者らに拡散をしていただくような、そういう形として今25名の方に「山の日アンバサダー」に就任してもらっています。

野口健さんなんかそうです。あとは、イモトアヤコさんをモンブランなど案内した角谷さんとか、片山右京さん、若村麻由美さんとか、天国じじいとか、工藤夕貴さんとか、小林綾子さんとか。
なすびさんもそうですが、彼は非常にナイスガイですよ。
なすびさんには、いつか「山の日」記念全国大会を福島でしょうって話をしているんです。それを7回大会とか8回大会とかじゃなくて10回大会と、20回大会とかっていう記念の大会にしようよって言っています。
彼は県知事と親交があるんだけど、その復興の過程にある中で、まだそんなに余裕がないんだ、と。職員に「山の日」の事務仕事させるよりは、復興支援を最優先させなきゃなんないんでもうすこし待ってほしい、、っていうのが今のところ福島県の意向と思われるのですけど、こういう多才な人たちに山の日アンバサダーになってもらっているんですね。

坂口:
もしかしたら、イモトアヤコさんを手塚さんが案内する可能性もあったんですか?

手塚さん:
できないですね。僕は裏方の仕事が好きなんで。たとえば角谷さんが仕事しやすいようにする立場。それが僕の仕事ですね。話を戻しますけど、山の日アンバサダーの近藤健司さん(国際山岳ガイド)が2018年5月23日にエベレストの頂上で、私たちのフラッグを掲げてくれました。これはエベレストの頂上です。

坂口:
今もこの旗はエベレストの頂上にあるのですか?

手塚さん:
いいえ、ありません。ナイロン製のこの旗は持って帰っていますし、酸素ボンベ、テントなどもすべて回収します。

先程申し上げた、一つ目のたくましい子ども達の育成、二つ目が森林資源と水資源の保全、三つ目が山と自然の安全と防災、四つ目が地域振興。この縦軸のものに対して、「山の日」記念全国大会、それから二つ目の全国「山の日」フォーラム、三つめの山の日マガジン、四つめの山の日アンバサダー、これら四つの横糸を通すことによって、こうしたフラグが出来上がって国民の祝日「山の日」がどんどんどんどん周知されていくといいですね。

きっと今、坂口さんは「こいつ、何でこんなに熱心にしゃべっているんだろう?」と思っているかもしれないけれども、やっぱり日本の自然というのはとても大切だと思っているんです。僕も坂口さんも、昭和・平成・令和のこの三つの時代を過ごしてきて、大きく変わったことがいくつもあると思います。そんな変革著しい時代に生きてきましたよね、僕達って。でその中でも、やっぱり個人的に気になるのは「子ども達の自然体験機会の減少」です。
それが衰退していること。日本って島国じゃないですか。北西の方にはユーラシア大陸があって、南東の方には太平洋という大海原がありますよね。そこに、島国としての日本がある。

で、世界的に見るとすごく珍しいんですけども、大体世界の気候って、雨季と乾季の2シーズンなんですよ。でも日本には春夏秋冬の4つシーズンがありますよね。たぶん来週あたりから1回目の雨季、梅雨が始まりますよね。秋には秋雨前線が来てまた雨季があります。4つのシーズンと2つの雨季があるって凄く珍しくて、なおかつ垂直方向には0メートル から3776 メートルまで、つまり急峻だから谷が深いし、国土の7割が山地ですし、それがこの狭い国土の中に全部凝縮されているんですね。
水平方向で言うと、北海道から沖縄まで南北にも長いですよ。こういう国に暮らす人間達が作り上げた生活習慣とか文化って、やっぱり世界的にもすごく珍しくって、令和っていう元号の出典元となった万葉集には、人と自然の直接のかかわりや、自然を自らの力の届かない神的存在と考えて詠われたものも多い。神話の世界の話ですが、富士山にはコノハナサクヤヒメが居ましたし、山の神って女性なんですよね、神様が嫉妬するから女人禁制の山があったりします。富士山参りの富士講って知ってますか?御講が無事に終われば「無礼講」っていうじゃないですか。
日本の自然ってすごいよね。こんなに人の心を躍らせたり、喜ばせたり、悲しませたり。

森林セラピーって言葉を聞いたことありますか?
入院患者は窓際のみどりが望めるベッドの患者さんのほうが治癒率が高いんですって。
これはInternational Society of Nature and Forest Medicine(INFOM)がちゃんとエビデンスをだしています。
一方でこの日本という国の豊かな自然は、その反面として自然災害も多い。地震もある。火山の噴火もある。去年は、岡山県の真備町でしたっけ、倉敷のあの河川で氾濫がありましたよね。だから豊かな自然に暮らすということは、その裏腹として、やっぱり自分たちの立つところが非常に軟弱な地盤なんだっていうことを意識しなければならない。そういう国土で生きていく以上、子どもたちが、「何が危なくて、何が安全なのか」っていうことを、幼少の時代から身につけていくということは、防災や減災にもつながることなので、たくましい子どもたちの育成の重要性ということを、これは徹底的に訴えていかなきゃならないと思っています。
やっぱり子どもたちの自然体験機会、それが衰退していくんだったら、その原因は何なのか。どうやったら、それをまた盛り返すこと、復興することができるのか。

5月のゴールデンウィークだったと思うんですけども Googleで「自然」っていう二文字を検索したんですよ。わずか0.56秒で21億3千万件ヒットするんですよ。でもその21億3千万件を全部見れますか?

一生かかったってそんなページ数は見れやしないですよ。仮に読めたとしてもそれで「自然」を理解できますか?大事なのは実体験なんですよ。だから、子どもたちを現場に連れてって、痛い想い・悲しい想い・嬉しい想い・寂しい想い、高揚感、みたいな大脳辺縁系に響く体験を積むべきだし、こうなったらどうなっちゃうんだろうっていうことは想像力をふくらませるでしょうし、それに対処する力を養うことが絶対必要だと思っています。

「山の日」がそのきっかけになればいいなと思っています。
さきほども「山に親しむ機会を得て山の恩恵に感謝する」という「山の日」の趣旨についてお話しましたが、感謝するかしないかの強制なんてできないんですよね。
「坂口さん、あなた、自然に感謝しなさい!」って、こんなことを言う権利は誰にもないんですよ。それは各人の自由です。

だけども、親しむ機会を増大してあげること、醸成してあげること。それから親しむ機会を逸している人達、それは、私は外国人だから、私は女性だから、LGBTだからとか、私は子どもだから、私は障害者だからって、親しむ機会を逸していると感じているのならば、その阻害する要因を丁寧にこの世の中から除去していくこと、誰もが楽しめる日本の山と自然にしていくこと、これが山の日のミッションですね。
もっと先のゴールは、極論ですが「山の日」がなくなること。だって、国民みんなにとって山とか自然とかが当たり前の、特に意識すらしない対象になったら、カレンダーに「山の日」なんていらなくなるかもね。そしたら次は世界のすべての国に「山の日」を作りたいです。

たくましい子どもたちの育成というのはひとつの分野でしかないですけど、そんなことを今私は、一生懸命やってます。好きだからね(笑)、私にとっては毎日が「山の日」です。

坂口:
すごい!感動しました!逞しくかっこいいですね。
最後に、桐朋っ子に向けて一言を頂きたいのですがよろしいでしょうか。

手塚さん:
もしこの学校の居心地がいいと思うなら、まず親に感謝すること。
だって自分でこの学校を選んだわけじゃないでしょ?親が選んだんでしょ?
それから友達を大事にすること。
あなたが、あなたであるように、みんなそれぞれが個性を持った、ひとり一人の人間なんです。
で、そういう多様性を誇り、かつ大切にすること。つまり「ボクはキミの意見には反対だけど、キミがそれを主張することの権利はボクは命を賭けても守りまっせ!」みたいなこと。
今でも桐朋の教育はそうだと思うんですけど、だとすれば、その多様の中に居るこの時期にお会いできたお友達を一生大事にして、いつまでも横のつながりを持っていくこと。
それをお願いしたいなと思います。きっといいことあるからって言いたいですね。

坂口:
ありがとうございました。

手塚さん:
ありがとうございます。

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次回は<2019年9月20日>に予定しています。

こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,094名(2017年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。

同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。

「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。