【Vol.24】桐朋との繋がり -Iさん 後編-

ゲスト    :卒業生Ⅰさん(以下、Iさん)
インタビュアー:桐朋学園初等部同窓会 会長 坂口佐代子 (以下、坂口)

 

今回のインタビュー”桐朋との繋がり”についてですが、インタビューを受けて下さった卒業生のお仕事の関係上、匿名での公開記事になりますこと、予めご了承いただきたくよろしくお願いいたします。

卒業生Iさんのインタビュー後編です。
前回のインタビュー<前編>はこちら

坂口:
今精神科のドクターをされていますが、精神科医を選ばれた理由を教えてもらっていいですか?お父様かお母様がドクターだったのでしょうか?

Iさん:
母のご先祖様が医者だと聞かされたことが影響しています。
小さい頃親戚に「将来、何になるの?」って聞かれた時に、当時はナイチンゲールの生き方に憧れていたので看護婦さんになるのって応えたら、看護婦は血を見るよって言われたので、じゃあ医者になるってなったんです。今思うとその答えは意味が分からないですよね。

坂口:
精神科医では、血は見ないですからね。

Iさん:
そうですね。血は見ないですからね。
それで、私は人の話を聞くのが好きだし、相手の人生のことを考えたりすることも好きだし、お話を聞いて相手が楽になるんだったら、こんないい仕事はないと思いまして、精神科医になりました。私は音楽を聴く時もメロディーを聴くのではなく、歌詞を読むのが好きなんです。この人はどんな世界を描いていて、何を伝えたいのかなとか考えるのが好きだったんですよね。だから、そういう性質というか。

大学を卒業して、まずは内科に行って内科も面白くなってきた矢先に、精神科医の先生とご縁があって、その先生がおられる大学の精神科の医局に入ったんです。

坂口:
そうだったんですね。
今なさっているのが、T市で開業されていますが、そちらのクリニックでは主にどういう風に患者さんと接しているんですか?

Iさん:
話を聞いて欲しいって人が割と多いので、なるべく丁寧にお話しを聞いています。もちろん混んでいるときは長い時間は取れませんけれど。話をお聞きしながら、今の世相に思いを馳せています。

坂口:
まさに今の日本の抱えている問題が出る領域ですよね。

Iさん:
そうですね。
非正規雇用の問題とか、海外の人を受け入れる会社の大変さだとかはわりとよくお聞きします。例えば非正規雇用の問題であれば、非正規雇用者も正社員も経営者も、すべての立場の方が来られるので、それぞれの立場の大変さがわかるようになりました。すべての方が与えられた環境の中で頑張っているのだなと、当たり前ですけど実感しています。私は話を聞くぐらいしかできないですけど、もっと楽に生きられる方向性はないかといつも一緒に探っています。

坂口:
Iさんの聞くチカラは、どのように形成されたんですか?
やはり桐朋小学校での学びにも関係あると思われますか?

Iさん:
聞くチカラですか…特別自分にそんな力があるとは思っていませんが、人の話を聞くのが好きなのは母の影響かと思います。小さい頃から母と二人で喋ることがやたら多かったです。一緒に買い物に行ってはずっと喋って、お散歩で歩いてはずっと喋ってる。ずっと喋り続ける、そういう親子ではありましたね。

坂口:
そういうことだったんですね。
“聞くチカラ”っていうところで、もう少しお聞きしたいのですが、色々なご相談がある中で、恋の相談もあったりするのですか?

Iさん:
恋の相談、ありますよ。

坂口:
その時に、お話をしたい方って自分の中に答えを持っているものなんですか?
それとも、相手の想いと異なるアドバイスをあげるものなんですか?例えば、その恋は実りませんよ。とか言ってしまうのかなと。

Iさん:
多分ね、患者さんの話って、患者さんの主観でお話をされるんですけど、だから結局治療者もその主観からは離れられないと思うんですよ。例えば裁判とかあって、私がこんな目に遭っているということを証明してください。と言われることもあるんですけど、それは証明できないんですよ。
我々精神科医は、その人が言っていることを事実と捉えて治療をすることが前提です。例えば、患者さんが自分に都合がいいように事実を曲げて苦痛を訴えても、我々は患者さんの言うことを事実として理解し治療するしかできないのです。だから証明はできないんです。
結論として相手が思っていることに近い形のアドバイスになるかなと思います。もちろん、治療経過中にいつごろから具合が悪化して薬を増やしたなどのカルテの記載事実は証明できるのですが。

話しは変わりますが、治療をしていると、その場の雰囲気で、患者さんと分かりあえたという感覚を受けることもありますけど、それが本当かというと私はわからないです。それは、その場で患者さんが事実として受け止めて、ずっと同じ気持ちを持ち続けていてくれたことが証明できたら本当だったんだなと思いますが、それはわからないですね。
だから、決していい気分にはなれないんですよね。仕事は。

もっと言うと、私がいい気分になってしまうと、治療の落とし穴が待っています。つまり慢心して相手の事を分かったつもりになってそれ以上話が聞けなくなってしまうんです。患者さんの本当のところはわからないつもりでいた方が、いつも虚心に話を聞けますし、その時必要な治療へとすぐに方向転換ができます。つまりいい気になるなって、自分にいつも言い聞かせていますね。

坂口:
深い話ですね。

Iさん:
深いですか(笑)そうは思わないんですけどね。

坂口:
そういうところがIさんの素敵なところですね。謙虚な姿勢というか、天狗にならないというか。

Iさん:
天狗は高尾山だけで十分です(笑)

坂口:
(大笑)

さて次の質問です。Iさんにとって桐朋への想いをお聞かせください。

Iさん:
私にとってはユートピアですね。
小学校が毎日毎日楽しくって、朝は起きて行くっていうのがすごく幸せを感じた。
すごく楽しかったですね。居心地の良い場所があるって本当に幸せなんですよ。

結局、子どものいる世界が家しかなかったら、家の中だけで人生が良いか悪いかが決まるじゃないですか。例えば、親兄弟との関係が悪くて家でさみしい思いをしている子供や、両親が喧嘩ばかりしていて緊張が絶えない子供にとっては、もしその子の世界が家しかなかったら、状況によっては地獄になってしまうかもしれない。

でも、学校や友達とのかかわりなどで、本当に楽しかったり安心できたり自分の個性をそのまま受け入れられたりすることがひとつでもあれば、少しは人生がましになるんじゃないかと思うんです。逆に学校で嫌なことがあっても、家の居心地がよければその子の世界には救いがあります。

つまり、その子のおかれた環境のどこかで嫌なことがあっても、自分の世界が家だけでなく学校や友達との遊び場など沢山あればあるほど、相対的に嫌なことは小っちゃくなるじゃないですか。だから絶対に居心地の良い場所がいっぱいあった方がいいと思うんですね。

坂口:
すごいジーンときました。桐朋生は本当に幸せだったんですね。

Iさん:
私は本当にそういう意味で母親に感謝してるんです。
転校させてくれてありがとうって。あの時にちょっと新しい自分を発見して、ふざける自分も発見できて、みんなと仲良しになれて、みんなと一緒に笑ってね。転校してから、安心する場所を得られたんですよ。本当に桐朋小学校は安心できる場所ですね。先生たちが見てくれる。みんなで褒めてくれる。遊びの中にチャレンジがあり、みんなで応援してくれる。チャレンジできた自分に自信がつく、本当に素晴らしくいい学校だと思います。安心できる場所があるって幸せですね。

坂口:
いいお話ですね。お母様にも桐朋小学校にも感謝ですね。
最後の質問になります。世界で活躍されていたり、これから活躍される桐朋っ子にむけて一言頂けますか?

Iさん:
今の小学校が私のいた時と同じようにやってくださっているんだったら、貴方たちは幸せな場所にいるよって言いたいですね。
で、昔の桐朋っ子はお互いいいところに行ったねっていう気持ちですね。
桐朋小学校を誇りに思いますし、自慢の学校です。多分皆さんもそう思っているだろうなと思うので、夢に向かって頑張ってください!

坂口:
ありがとうございました。

Iさん:
ありがとうございました。

次回より、10月18日に開催予定の周年行事の準備の為、インタビュー記事はお休みさせて頂きます。

こちらのページでは、先生や卒業生の近況、また桐朋生にとって懐かしい方々を紹介いたします。
桐朋学園初等部同窓会は6,094名(2017年度3月時点)の会員から構成され、卒業生間の親睦と母校への貢献を目的に活発な活動をおこなっています。
卒業後も桐朋の教えをもつ仲間として、深い繋がりをもっていることが桐朋学園初等部同窓会の特徴です。

同期生同士の横の繋がりだけでなく、クラブ活動や課外活動等によって形成された先輩・後輩の縦の繋がりは、社会人になってからも大きな心の支えとなり、様々な場面で活かされ、その関係は一生のものとなっています。

「桐朋との繋がり」をきっかけに、更なる同窓生の交流が深まるよう、これから繋がりの深い方々を紹介していきます。